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年金は何歳から受け取るのが得?繰り上げ・繰り下げの損益分岐点と知らないと損する注意点【令和8年度版】

「60歳で受け取るか、70歳まで待つか」――この選び方ひとつで、一生に受け取る年金が数百万円変わることがあります。しかも、一度決めるとあとから取り消せないものもあります。

この記事では、YouTube「しおりの年金とくらし相談室」でお話しした内容を、読み返しやすいようにまとめました。2026年度(令和8年度)の数字で、損益分岐点から、知らないと困る注意点まで、ひとつずつ見ていきます。

この記事のポイント
・受け取り始めは60〜75歳のあいだで、1か月単位で選べる
・早めると1か月0.4%減、遅らせると0.7%増。割合は一生そのまま
・損益分岐点はおよそ81〜87歳。ただし手取り・健康寿命・ご夫婦の組み合わせも大切
・繰り上げには7つ、繰り下げには6つの注意がある

目次

年金のきほん|65歳は「決まり」ではなく「基準」

公的年金は、20歳以上のすべての人が入る国民年金と、会社員や公務員だった期間に入る厚生年金の2階建てです。

  • 国民年金:20歳から60歳までの40年間、保険料を全部納めると満額。2026年度の満額は月7万608円
  • 厚生年金:働いていたときのお給料と加入期間で、金額は人それぞれ
  • 受け取るには、保険料を納めた期間などが合わせて10年以上必要(免除や、ご主人の扶養に入っていた期間も数に入ります)

どちらも原則65歳から受け取りますが、実は60歳から75歳までのあいだで、受け取り始める時期を自分で選べます。65歳より早く受け取ることを「繰り上げ」、遅く受け取ることを「繰り下げ」といいます。

ご自分が65歳でいくら受け取れるかは、毎年お誕生月に届くねんきん定期便で確認できます。50歳以上の方の定期便には、60歳まで加入した場合の65歳からの見込み額が書かれています。スマホやパソコンの「ねんきんネット」なら、受け取り始める年齢を変えた金額も試算できます。

年金は毎年変わる|マクロ経済スライド

年金額は毎年4月に、物価やお給料の動きに合わせて見直されます。ただし、物価が上がったぶんそのまま上がるわけではありません。現役世代が減り、長生きの方が増えていることに合わせて、上がり方を少し控えめにするマクロ経済スライドというしくみがあるからです。

2026年度上がり幅
物価3.2%
お給料2.1%
国民年金1.9%

このしくみは、何歳から受け取り始めても全員に同じようにかかります。繰り下げで増える割合は、毎年見直された金額に対してかかるので、割合そのものは変わりません。ただ、待っているあいだに物価が上がると、お金の価値はそのぶん下がります。

早く・遅くで、年金はいくら変わる?

  • 繰り上げ:1か月早めるごとに0.4%減。60歳からだと24%減(昭和37年4月1日以前生まれの方は1か月0.5%)
  • 繰り下げ:1か月遅らせるごとに0.7%増。70歳で42%増、75歳で84%増(75歳まで待てるのは昭和27年4月2日以降生まれの方)

65歳から月15万円受け取れる方で計算すると、こうなります。

受け取り始める年齢増減月の金額
60歳−24%11万4,000円
62歳−14.4%12万8,400円
64歳−4.8%14万2,800円
65歳±015万円
66歳+8.4%16万2,600円
68歳+25.2%18万7,800円
70歳+42%21万3,000円
75歳+84%27万6,000円

増えた・減った割合は一生そのままです。60歳で24%減らした方は、65歳になっても元の金額には戻りません。

何歳まで生きると得?|損益分岐点

受け取りの合計が、65歳から受け取った場合とちょうど同じになる年齢を「損益分岐点」といいます。

受け取り始める年齢65歳からの人と並ぶ年齢
60歳80歳10か月(これより長生きすると損)
62歳82歳10か月
68歳79歳11か月
70歳81歳11か月(これより長生きすると得)
75歳86歳11か月

覚え方のコツは、繰り上げは受け取り始めてから約20年10か月、繰り下げは約11年11か月です。合計額で比べると、80歳までなら60歳から受け取った方がいちばん多く、85歳になると70歳からの方が逆転、90歳までなら70歳からの方が60歳からより1,000万円ほど多くなります。

平均寿命は女性87.13歳、男性81.09歳。女性のおよそ半分、男性でもおよそ4人に1人が90歳まで生きるといわれています。公的年金は生きているかぎり一生受け取れる、長生きに備える保険のようなものです。

一方で、介護などを受けずに元気に暮らせる健康寿命は、女性75.45歳・男性72.57歳。平均寿命との差はおよそ10年あります。さらに、年金が増えると税金や介護保険料なども増えるので、手取りで比べると繰り下げで増えた分は表の数字より少し小さくなります。

額面の数字だけでなく、手取りと元気に使える時間も合わせて考えることが大切です。

早めに受け取る5つのよいところ

  1. 元気なうちに、旅行や趣味、お孫さんとの時間に使える
  2. 60歳で退職したなど、65歳までの収入の空白をうめられる
  3. 貯金をくずさずに済み、いざというときのお金を残せる
  4. 繰り下げて待っている途中で亡くなり、受け取らずに終わるのを防げる
  5. 毎月決まったお金が入る、気持ちの安心

たとえば62歳で仕事を辞めた方が62歳から受け取り始めると、減るのは14.4%ですが、65歳までの3年間を貯金をくずさずに暮らせます。ただし、早めに受け取るのは、次の7つの注意を確認してからにしてください。

繰り上げる前に知っておきたい7つの注意

  1. 一度請求すると取り消せない。減った割合も一生続きます
  2. 国民年金と厚生年金は両方いっしょに繰り上げになります(片方だけはできません)
  3. 障害基礎年金が原則受け取れなくなる。持病のある方はとくに慎重に
  4. 寡婦年金が受け取れなくなる(ご主人が国民年金だけだった場合に、妻が60〜65歳で受け取れる年金)
  5. 65歳になるまでは、遺族年金とどちらか一方しか受け取れない
  6. 任意加入・追納・iDeCoができなくなる
  7. 65歳前に失業手当を受け取ると、そのあいだ厚生年金が止まる

ひとつでも当てはまる方は、繰り上げは慎重に考えてください。未納の期間がある方は、まず任意加入などで年金を増やす方法がないかを先に確認しましょう。

繰り下げる前に知っておきたい6つの注意

  1. 待っているあいだは年金が1円も入らない(月15万円の方が70歳まで待つなら、5年分900万円をほかのお金でまかなう計算)
  2. ご主人が厚生年金を繰り下げると、加給年金が受け取れず、待っても増えない
  3. 奥様が国民年金を繰り下げると、振替加算も待っているあいだは止まり、増えない
  4. 待っている途中で亡くなると、増えた分は受け取れない
  5. 働いていて在職老齢年金で止められた分は、繰り下げても増えない
  6. 所得が上がり、医療費や介護の自己負担が増えることがある

60代前半から受け取れる「特別支給の老齢厚生年金」は、待っても増えません。届いたらすぐ請求するのが基本です。また、70歳を過ぎてから「やっぱりまとめて受け取りたい」と思ったときは、請求した日の5年前に繰り下げたものとして、5年分をまとめて受け取れるしくみもあります。繰り下げは、国民年金と厚生年金を別々に選べるのも繰り上げとのちがいです。

働きながら受け取る方の注意|在職老齢年金

厚生年金に入って働きながら年金を受け取ると、毎月のお給料と厚生年金の合計が65万円を超えた場合、超えた分の半分が止まります。この基準は2026年4月から、51万円から65万円に引き上げられました。

例お給料厚生年金合計止まる額
Aさん45万円15万円60万円止まらない
Bさん55万円15万円70万円月2万5,000円

止まるのは厚生年金だけで、国民年金は全額受け取れます。自営業やパートなど厚生年金に入らない働き方なら、収入が多くても止まりません。反対に、65歳を過ぎて厚生年金に入って働いていると、毎年10月に納めた保険料の分だけ年金が増える「在職定時改定」というしくみもあります。

ご夫婦で考える3つのポイント

① 加給年金がある家は、ご主人の厚生年金は65歳からが基本

ご主人の厚生年金が20年以上で年下の奥様がいると、奥様が65歳になるまで年およそ42万円が上乗せされます。厚生年金を繰り下げるとこれを受け取れなくなるので、繰り下げるなら国民年金だけにする方法があります。

② 繰り下げで増やした分は、遺族年金には反映されない

ご主人が亡くなったあとの遺族厚生年金は、増やす前の厚生年金をもとに計算されます。

③ 長生きの可能性が高い奥様の年金を繰り下げる

ご主人は65歳から受け取って生活費にあて、奥様の国民年金を繰り下げて、ひとりで暮らす期間に備えるという役割分担もあります。振替加算を受け取れる方は、上の注意もあわせて確認してください。

よくある失敗例3つ

  • 繰り上げたあとに退職:失業手当を受け取るあいだ厚生年金が止まり、しかも24%減ったまま一生戻らない
  • ご主人が厚生年金ごと繰り下げ:加給年金を5年分、200万円以上受け取りそこねた
  • お給料が多いまま繰り下げ:厚生年金はほとんど止められる計算で、42%増えるつもりが国民年金と一部しか増えなかった

どれも、請求の前に年金事務所で試算していれば気づけたものばかりです。

あなたはどっち?タイプ別の考え方

早めに受け取ることを考えてもいい方

  • 60代前半で、生活費が足りない方
  • 持病などがあり、健康に不安がある方
  • 元気なうちに旅行や趣味にお金を使いたい方
  • 貯金が少なく、手元のお金を減らしたくない方

遅く受け取ることを考えてもいい方

  • 65歳を過ぎても働いて収入がある方
  • 貯金に余裕があり、長生きへの備えを厚くしたい方
  • ご家族が長生きの家系で、健康に自信がある方
  • 女性のおひとりさまや、ご主人より長く生きる可能性が高い奥様

迷ったら、厚生年金は65歳から受け取り、国民年金だけ70歳まで待つといった半分ずつの受け取り方もあります。繰り下げは請求書を出さずに待つだけなので、66歳以降なら好きなタイミングで受け取り始められます。

よくある質問

Q. 繰り下げたいときは、どんな手続きをするの?

65歳の少し前に届く年金の請求書を出さずに待ち、受け取りたくなったときに繰り下げの請求をします。片方だけ繰り下げるときは、請求書の繰り下げ希望の欄に印をつけて出します。増やせるのは66歳になってからです。

Q. 繰り上げたいときの手続きは?

年金事務所や街角の年金相談センターで、繰り上げの請求書を出します。受け取りは請求した月の翌月分からです。何%減るのか、金額を必ず確かめてから出してください。

Q. 待っている途中で、まとまったお金が必要になったら?

70歳になる前なら、増やすのをやめて65歳からの分をまとめて受け取れます。ただし増えない元の金額での受け取りになり、過去の分の税金や保険料をあとから払い直すことがあります。

Q. 一度受け取り始めたら、あとから繰り下げに変えられる?

いいえ、変えられません。65歳で請求書を出す前によく考えて決めることが大切です。

Q. 繰り下げて待っているあいだに、夫が亡くなったら?

奥様が遺族年金を受け取れるようになると、その時点でご自分の年金を繰り下げて増やすことはできなくなります。

Q. 繰り上げも繰り下げもしないと、損なの?

いいえ。65歳からの受け取りは注意点がいちばん少ない、バランスのいい選び方です。迷ったら65歳からを基本に、ご家庭の事情に合わせて考えてみてください。

まとめ

  • 受け取り始めは60〜75歳のあいだで、1か月単位で選べる
  • 早めると1か月0.4%減、遅らせると0.7%増で、一生そのまま
  • 損益分岐点はおよそ81〜87歳
  • 繰り上げは取り消せないなど7つの注意
  • 繰り下げも加給年金や在職老齢年金など、増えないケースがある
  • 手取り・元気に使える時間・ご夫婦の組み合わせも合わせて考える

どれが正解かはご家庭によってちがいます。迷ったときは、年金事務所や街角の年金相談センターで、ご自分の金額で試算してもらえます。請求の前に、一度相談してみてくださいね。

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今日のお話を、ご自分の数字で確かめたい方には、特典③の「繰上げ・繰下げ 損益分岐 早見表」がぴったりです。ねんきん定期便の金額を当てはめるだけで、何歳から受け取ると月いくらか、何歳まで生きれば得かがわかります。

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※金額は「65歳からなら月15万円」の方を例にした額面(税・社会保険料を引く前)の計算です。年金額・在職老齢年金の基準額は令和8年度(2026年4月〜)の値です。平均寿命は厚生労働省「令和6年簡易生命表」、健康寿命は2022年の値です。実際の金額や条件はお一人おひとり異なります。請求の前に、年金事務所・街角の年金相談センターでご確認ください。

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